特集上映
生誕百年記念 山中貞雄監督特集

伝説の天才

最初の黄金期を迎えようとしていた戦前の日本映画界に彗星のごとく現れ、天才の名をほしいままにしながら、28歳の若さでこの世を去った映画監督・山中貞雄。

5年の短期間に26本の映画を監督したものの、ほぼ完全なかたちで現存しているものは、『丹下左膳餘話 百萬兩の壷』『河内山宗俊』『人情紙風船』わずか3本。

シネマテーク・プロジェクト第2弾では、生誕百年を迎えた天才・山中貞雄の偉業を偲び、監督作3本をニュープリントで上映するほか、共同監督作品、脚本作品など、現存する7本の関連作品を上映します。また、伴奏付き上映と生誕百年を記念して製作された『貞雄にいさんのことー素顔の山中貞雄』、さらには山中が学生時代に使用した辞書のすみに描かれた3篇のパラパラ漫画を動画化したものも上映します。

この機会にわずかに残された珠玉の作品の中に残る天才・山中の輝きにもう一度ふれてみてください。

山中貞雄(1909-1938)

1909(明治42)年11月8日京都市生まれ。少年時代からの活動写真熱が高じて、京都市立第一商業学校卒業と当時に学校の先輩であったマキノ正博を頼ってマキノ等持院撮影所に入社。1928年より嵐寛寿郎プロダクション、1929年に東亜キネマで脚本の才能を開花させ『右門捕物帖』『なりひら小僧』などの看板シリーズの作者として頭角を現す。1931年に第二次嵐寛寿郎プロに入社。1932年、弱冠22歳で発表した監督デビュー作「磯の源太 抱寝の長脇差」が山中の評価を決定的なものとする。翌年、日活へ入社。1934年、自身初のトーキー作品「雁太郎街道」を監督。同年、稲垣浩、瀧澤英輔、三村伸太郎、八尋不二(後に土肥正幹、萩原遼、藤井滋司が加入)とシナリオ執筆集団”鳴滝組”を結成する。梶原金四郎、梶原金八、梶原金六の名でシナリオや原作を提供するが、最終的に梶原金八のペンネームに落ち着く。1937年P・C・Lへ入社。監督作品としては遺作となった「人情紙風船」(1937年)の封切りの日に召集され、中国戦線へ赴き、翌年病のため、わずか28年の短い生涯を終える。

山中貞雄監督作品

丹下左膳餘話 百萬兩の壷   1935年/日活京都/91分/白黒/35ミリ/ニュープリント

上映日:2/27(土)10:30  3/2(火)13:00  3/3(水)16:10

構成・監督=山中貞雄/撮影=安本淳/録音=中村敏夫/音楽=西梧郎/編集=福田理三郎/装置=島康平/照明=井上栄太郎/衣裳=稲次招
出演=大河内傳次郎(丹下左膳)/喜代三(お藤)/宗春太郎(ちょび安)/澤村國太郎(柳生源三郎)/山本禮三郎(与吉)/高勢実乗(茂十)/鳥羽陽之助(当八)/花井蘭子(萩乃)/深水藤子(お久)

『丹下左膳』(33)、『丹下左膳 剣戟篇』(34)の伊藤大輔にかわり、山中が監督にあたった異色の左膳映画。それまでは悲劇のヒーローとして描かれていた丹下左膳が、ここでは、剣は立つが恐妻家で怒りっぽいが情にもろい、庶民的な人物として描かれている。用心棒の左膳がみなし児のちょび安を育てるストーリーは『歓呼の涯』(1932年/スティーヴン・ロバーツ監督)というアメリカ映画をヒントに江戸時代のホームドラマといえる作品に仕立てた。監督作品の中で、まとまった形で現存する最も古い作品。

河内山宗俊   1936年/日活京都=太秦発声/81分/白黒/35ミリ/ニュープリント

上映日:2/28(日)12:10  3/3(水)12:40  3/4(木)10:30

監督・原作=山中貞雄/脚色=三村伸太郎/撮影=町井春美/録音=万宝圭介/音楽=西悟郎
出演=河原崎長十郎(河内山宗俊)/中村翫右衛門(金子市之丞)/市川扇升(直侍)/山岸しづ江(お静)/清川荘司(北村大膳)/市川莚司=加東大介(健太)/原節子(お浪)/衣笠淳子(三千歳)

『街の入墨者』(35)に続く、山中が心酔する前進座と組んで監督した2作品目。情婦のお静に居酒屋を営ませている遊び人・河内山宗俊、所場代を集めるしがない用心棒・金子市之丞、甘酒売りをしている美しい娘お浪を姉に持つ直侍―不良少年たちの日常が描かれる。『河内山と直侍』の通称で有名な河竹黙阿弥の歌舞伎『天衣粉上野初花(くもにまごううえののはつはな)』の登場人物を市井の人々に置き換え、「髷をつけた現代劇」を代表する作品の一つとなった。お浪を演じた当時16歳の原節子も注目を集めた。

人情紙風船   1937年/P・C・L/86分/白黒/35ミリ/ニュープリント

上映日:2/27(土)12:40  3/3(水)10:30  3/5(金)17:00

監督=山中貞雄/脚本=三村伸太郎/撮影=三村明/録音=安恵重遠/装置=久保一雄/編集=岩下広一/音楽=太田忠/美術考證=岩田専太郎
出演=河原崎長十郎(海野又十郎)/中村翫右衛門(髪結新三)/山岸しづ江(おたき)/霧立のぼる(お駒)/市川莚司=加東大介(猪助)/市川笑太郎(弥太五郎源七)/瀬川菊之丞(忠七)/御橋公(白子屋久左衛門)

P・C・L移籍後第1作、そして遺作となった作品。河竹黙阿弥の歌舞伎『梅雨小袖昔八丈』をもとに、脚本家の三村伸太郎は「はかないながらも明日への新しい希望をもつ生活」として江戸深川の長屋に住む人々の義侠心を描いた比較的明るいタッチで描いたが、山中による大幅な改変を経て完成した作品の「暗い厭世的な翳」に愕然としたという。山中のもとに召集令状が届くのは本作が封切られたその日のことであった。「従軍記」と題したノートに「『人情紙風船』が遺作とはチトサビシイ」と書き遺した。

関連作品

水戸黄門 血刃の巻   1935年/日活京都/92分(18fps)/白黒/サイレント/35ミリ

上映日:2/28(日)14:30★  3/4(木)14:30  3/5(金)10:30

監督=荒井良平/原作=大佛次郎/脚色=山中貞雄/撮影=竹村康和/美術=島康平、山田虎猛一、川口市太郎
出演=大河内傳次郎(水戸光圀、立花甚左衛門)、澤村國太郎(助さん)、市川百々之助(格さん)、久米譲(柳沢美濃守)、市川正二郎(柳沢吉里)、山本禮三郎(藤井紋大夫)、清川荘司(兼重靭負)、高津愛子(榎木のお七)、伊村利江子(千世)

大佛次郎の新聞連載小説『水戸黄門』を映画化した三部作『来國次の巻』『密書の巻』に次ぐラストを飾るシリーズ最高傑作。六衛を救うために柳沢屋敷に入る甚左衛門。一方、江戸に現れた水戸光圀を偽者と断じた藤井紋太は乱心の噂をたてて老公失脚を企てる。脚色に際し山中は所々に笑いを加え、単調な陰謀劇に終わらない工夫を重ねている。本作では大河内傳次郎が水戸光圀と浪士・立花甚左衛門の二役を演じ、また大河内にとって最後の無声映画となった。

★「水戸黄門 血刃の巻」伴奏付き上映 2/28(日)14:30の回  演奏:柳下美恵(キーボード)

大菩薩峠 第一篇 甲源一刀流の巻   1935年/日活京都/77分/白黒/35mm

上映日:2/27(土)16:50  3/2(火)15:10  3/4(木)12:40

監督=稲垣浩/応援監督=山中貞雄、荒井良平/原作=中里介山/脚色=三村伸太郎、武田寅男、稲垣浩/撮影=谷本精史/美術=島康平、角井平吉/音楽=西梧郎、高橋敏夫
出演=大河内傳次郎(机龍之助)/入江たか子(お浜)/黒川弥太郎(宇津木文之丞)、澤田清(宇津木兵馬)、岡譲二(島田虎之助)、山本嘉一(机弾正)、鳥羽陽之助(水車小屋の与八)、鬼頭善一郎(裏宿の七兵衛)、深水藤子(お浜)

中里介山による未完の小説を映画化。人を斬ることを厭わない虚無の剣士・龍之助は、神社の奉公試合の相手・宇津木文之丞の許嫁であるお浜から勝負を譲ってくれと頼まれるが、宇津木を叩きのめし、お浜を連れて江戸を出ることに。監督は当初予定された伊藤大輔の後を稲垣浩が引継ぎ、山中と荒井良平が応援監督にあたった。稲垣によれば、「人の大勢出る立廻り等凄ごみのあるところは山中貞雄、芝居がかったところは僕、荒井良平がつなぎを」撮ったという。

戦國群盗傳[総集篇]   1937年/P・C・L/101分/白黒/35ミリ

上映日:2/28(日)16:50  3/2(火)10:30  3/5(金)14:40

監督=瀧澤英輔/原作=三好十郎/脚色=梶原金八/撮影=唐澤弘光/音楽=山田耕筰/録音=安恵重遠/美術=北猛夫/編集=岩下広一
出演=河原崎長十郎(土岐太郎虎雄)/中村翫右衛門(甲斐六郎)/河原崎國太郎(土岐次郎秀国)/山岸しづ江(田鶴)/千葉早智子(小雪姫)/坂東調右衛門(土岐左衛門秀虎)/橘小三郎(家老山名兵衛)/市川笑太郎(野武士・治部資長)

伊豆の城主土岐左衛門秀虎が弟の陰謀で城を追われ野武士の首領となるが…。前進座参加五本目にあたる本作は、前進座『吉野の盗賊』公演のためにシラーの『群盗』を三好十郎が翻訳した戯曲を下敷きに、鳴滝組(梶原金八)がシナリオ。「梶原金八」とは、1934年から36年にかけて京都鳴滝に集まった山中や稲垣浩、三村伸太郎ら若い映画人たちによる創作集団「鳴滝組」の共同執筆名。野武士の自由な生き方を選んだ若者達を西武劇的娯楽映画に仕上げた。

その前夜   1939年/東宝映画/86分/白黒/35ミリ

上映日:2/27(土)14:40  3/2(火)17:10  3/5(金)12:40

監督=萩原遼/原案=山中貞雄/脚本=梶原金八/製作=武山政信/撮影=河崎喜久三/美術=河東安英/美術考証=岩田専太郎/照明=西川鶴三/録音=道源勇二/編集=後藤敏男/音楽=太田長
出演=河原崎長十郎(滝川仙太郎)/中村翫右衛門(彦太郎)/山田五十鈴(お咲)/千葉早智子(藤堂芳江)/ 高峰秀子(おつう)/清川玉枝(おまさ)/助高屋助蔵(彦兵衛)/中村鶴蔵(徳兵衛)

幕末の京都。かつて繁盛していたが今ではすっかり暇になってしまった旅館・大原屋の唯一の客である滝川仙太郎は武士でありながら絵が描きたいばかりに禄を離れた変わり者。偶然、新撰組が池田屋に集まった浪士たちに夜襲をかけるという情報を知ってしまう…。山中が従軍中も映画化に意欲をのぞかせていた原案を、梶原金八が脚色して完成、「追善映画」として公開された。出演は山中作品を支えた前進座を中心に、山田五十鈴や高峰秀子が特別出演している。

特別上映

貞雄にいさんのこと―素顔の山中貞雄   2009年/デジタル・ミーム/デジタル/60分/カラー

上映日:2/28(日)10:30  3/3(水)14:40  3/4(木)16:30

山中貞雄の姪御である原田道子さんと映画評論家・佐藤忠男さんが、山中の菩提寺である京都の大雄寺で対談。生誕100年を記念して製作された貴重な記録。首都圏初上映。

山中貞雄パラパラ漫画アニメ   2分30秒/デジタル素材での上映 提供:京都文化博物館

監督作品「丹下左膳餘話 百萬兩の壷」「河内山宗俊」「人情紙風船」の上映前各回に併映

山中が学生時代に使用した辞書に描かれた三篇のパラパラ漫画。京都文化博物館が2003年に所蔵資料を撮影、動画化したもので、疾走する馬などの躍動感が表現されている。

チケット 当日券
一般=1100円
大学生・専門学校生・シニア・障がい者・介助者=1,000円
会員=800円
高校生以下=600円

回数券[1/20〜上映期間中も販売] 3回券=2,700円

■伴奏付き上映
2/28(日)14:30「水戸黄門 血刃の巻」(サイレント) 演奏:柳下美恵(キーボード)
伴奏付き上映のみ予約を承ります。
予約方法
1.窓口(9:30〜19:30 ※2/8は臨時休館日)
2.TEL.044-955-0107
3.FAX.944-959-2200
4.E-mail eizo@kawasaki-ac.jp

3,4は氏名、枚数、電話番号またはメールアドレスを記入の上ご予約ください。
※回数券もご利用いただけます。
※鑑賞当日、受付にてご精算ください。


◆回数券は、観賞当日、当館受付にて入場整理番号とお引換ください。
◆当日券・回数券ともに受付にて9:30〜19:30に販売(※2/8は臨時休館日)
◆整理番号順入場、自由席、各回入替制、立見不可(定員113名)
◆上映時間等はやむをえず変更する場合があります。

シネマテーク・プロジェクト

国内の公共的な文化施設が連携して、これまで上映される機会のなかった映画史上の名作を巡回する事業。この上映活動を通して、日本各地の既存の文化施設が、公共的な役割として、映画史的、批評的なプログラムを上映する機関となることを目指しています。一般社団法人コミュニティシネマセンターが中核となり、アートセンターも参加し、2008年は「日仏交流150周年記念 フランス映画の秘宝」を実施しました。

主催:川崎市アートセンター/一般社団法人コミュニティシネマセンター
共催:東京国立近代美術館フィルムセンター
共同開催:アテネ・フランセ文化センター/NPO法人コミュニティシネマ大阪/高知県立美術館/せんだいメディアテーク/山口情報芸術センター〔YCAM〕/広島市映像文化ライブラリーほか
フィルム提供:日活株式会社/東宝株式会社/東京国立近代美術館フィルムセンター
協力:京都文化博物館

一般社団法人コミュニティシネマセンター
http://www.jc3.jp/index.html

シネマテーク・プロジェクト第2弾 山中貞雄監督特集 特設ウェブサイト
http://sadao100.s1.bindsite.jp/

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